あるるる~と。

娯楽感想備忘録

『ONCE ダブリンの街角で』2007年87分制作国アイルランド

~あらすじ~

ダブリンの街で、ギターの弾き語りをしている男。鳴かず飛ばず
ある日そんな彼の演奏に一人の女が立ち止まる。


※以下ネタバレアリ


~感想~

『シング・ストリート 未来へのうた』のジョン・カーニー監督作品。
シング・ストリートを観てみて、レビューでも好評だった別作品も観てみたくなったので、観た。
※その為今回、シング・ストリートのネタバレも一部含みます。


良い映画だった……。
音楽と愛の映画。音楽を通して人と人とが通じ合っていく姿がじんわりと描かれていて、良かった。音楽の力を感じたし、暖かな物語だった。
監督の音楽への愛や信頼も伝わってくるなと思う。
(同様に音楽映画を撮っていて音楽経験有の監督と言えば、デイミアン・チャゼル監督が挙げられると思うが、各々の映画はある種対極さを感じる内容で面白い。)



【音楽】
音楽がまたとても良かった。
アコースティックギターとピアノのハーモニー、男声と女声の重なり、バンドになってからの音もイイ。すごくよかった……美しかった。
どの曲も好きだなぁ。歌詞も良かったな。
一人から、二人になって、バンドになって……、どんどん音楽が広がっていく感じ、凄く心地よくて、開けた空気を感じた。

穴あきギター。お昼に一時間楽器屋さんで弾かせてもらうピアノ。
おもちゃのピアノも面白かった。この辺の良さはアイテムとして……かな。

段々盛り上がっていく曲が多くて、なんか熱くてよかったなー。
単純に、途中から他の楽器やコーラスが入ってより盛り上がるっていう盛り上がり方もあれば、
girlとの初対面時歌っていたSay It To Me Nowの様に、転調?して弾き方歌い方に熱が入って盛り上がるっていう盛り上がり方もあって、
両方ともとても素敵だった。
盛り上がると、とたんに世界がバッて広がる感じがして、その感じが良かったな。
でも、If You Want Meのように、しっとりと暗く切ない曲もよかった。男性ボーカルメインの曲だけでなく女性ボーカル名の曲も入って……、そういう全体的な音楽のバランスが丁度良かったなと思う。
おもちゃのピアノを使用した、Fallen From The Skyは、本当に空みたいな浮遊感のある曲で、ふわふわとなんだか可愛い曲で好きだったな(でも歌詞はやっぱりちょっと切なさがある)。このシーンに娘がぽてぽて歩いて登場してるのもイイ感じ、みんな楽し気でさ。カメラも俯瞰が入ったり。
そういう本当に全体的な塩梅がとてもステキだった!

各曲が流れてる時の映像も、MVの様にピッタリマッチしてて綺麗だし。
別れた想いを歌うSay It To Me Nowではぽつんとダブリンの街で一人歌うguy。
依存の様な愛を歌うIf You Want Meでは赤黒い暗い夜の道路を一人歌い歩くgirl。
夫への辛い想いを歌うThe Hillではピアノしかない青暗い部屋で明かりも最小限…悲痛な面持ちのgirlをguyが見つめているけど一切視線が合うことは無い。
レコーディング1曲目に歌いレコーディング後に流れる決意の曲When Your Mind's Made UPは、まず展開と曲がメチャクチャ合っていて、レコーディング後ドライブからの砂浜の爽快感がまた凄く似合ってる。
そんな風に、元彼女への想いを歌う曲では一人自室で~とか過去のビデオをを観ながらとか、
色々、
しっかり曲と映像とが繋がっていて、凄く良かった。
はじめて2人で歌った曲で最後も流れる、メインテーマ的立ち位置のFalling Slowlyなんて、歌詞が本当にこの物語に合っていて、ラストでは交互に写る未来に進む2人の姿と陽の光のまぶしさと、ピッタリ合致してて沁みる。


【演習】
演出も、程よい。
熱いのに落ち着いてるというか。
guy girl
主人公たちの名前は登場せず、ただのguyとgirlなところとか、サイコーだなと思う。エンドロールでそういえば……!とハッとしてく~~~となった、良い!
ラストで最初のはじめてgirlと歌った曲が流れるのはとても熱いなと思った。レコーディング後の、レコーディング1曲目の決意の曲が流れるのも良い。
しっかり展開とマッチしてるとこがまた、ニクいね。
応援歌というか、決意をもって、良い方向へ進もうという信じる歌。


【登場人物】
人物描写も良い。
人々も優しいというか、悪人が出てこなくてよかったな。(女性が暗がりで一人になるシーンとか怖くていちいち怯えてしまった。)
ラストの、一人になってしまうのに、息子を送り出してくれるお父さん……ぐっときた。絶賛して、信じて送り出してくれた、良い。(お茶差し入れしてくれるシーンとかも好き。またおいでってgirlとニコッと握手したり。)
girlの娘、イヴァンカ可愛かったなぁ……。
guyの曲を聴いた人々が、最初は無表情でも、聴くとニコッとしたりするのが良かった。最初の楽器屋さんや、録音の方等。嬉しい。間の銀行マンが、自分も音楽やってて歌い出して承認してくれるのも楽しい。
girlの家へTVを見に来る隣人たちも、おもしろかった笑。girlも帰ってきた時玄関の人々へ挨拶してたし、ある程度お互い生活を共にしている仲間のような意識があるのだろうなと感じた。皆、国外からやってきて言葉もまだ練習中…みたいな感じの様子の住まいだったし、少しの支え合い助け合い。
あと、外でgirlがガラガラと掃除機を持ってきた描写は面白かったなw そういう、彼らの素朴な生活感というか、行動の地味な大胆さとか、良かったな。
あと、バス車内でguyが、girlに元カノについての事を即興で何曲(ジャンルも違う)か軽く歌うシーンも良かったなあ。日本住みとしてはいいの!?って感じの大胆な行動で、でも前の席のおばあちゃんも少し笑ってて。アレカッコよかったし、なんか良いシーンだったな。
そういえば、夜寝間着?時のgirlが履いてたくつ、パンダ?犬?白黒モフモフでなんか可愛かったな。最初の赤い、ボタンも布でくるまってるカーディガンも素朴でよかった。

guyは正直結構うじうじというかじくじくというか、結構しつこい面があるな~と観ていて思った。元カノを引きずってる事から始まってはいるけど、girlが断っても何度も何度も誘ったり。ちょっと女々しいというか、少し弱さを感じる。最後は名残惜しいのはわかるけど……。
一方girlは、最後もうレコーディング後は一切会わずに彼と別れたりしていて、強いなと思った。間違いがあるかもしれないから、家にはいかない、賢いと思うし正しいと思う。その場を終えるための嘘(恐らく)を言ってまで、突き通す。値段交渉等でも、かなりシッカリ交渉したりしてるし、母は強し。(誘われた後日子供を見せたりにも賢さ強さを感じた。)
劇中でそれぞれ、弱さや強さが描かれていたなと思う。
しかし、
作曲内容でいうと、guyは切なさ等暗さはあるものの救いや希望を感じる部分があるのに対し、girlは酷く暗い。救いを求めてる事だけが示され、あとはただ苦しみが続く……、というか。
その感じがまた、弱く見えるguyの強さや、強く見えるgirlの弱さを、感じさせて、深みが増していた。
とても良いなと思う。

あとは、guyに関しては段々歌う歌が、明るくなっていってた気がする。そういうじわじわとした描写、良いね。


【ストーリー】
ストーリーについては、三幕構成かな。
特に中間では本当にガッと動き始めて、あっという間に場や人も集まり、本格的に曲を演奏する流れになるのは熱かった。決心し突き進む。
オープニング…設定説明として、銭泥棒との追いかけっこ。(冴えない弾き語り生活)
はじめてgirlと歌う、ロンドン行きの決意、レコーディング、旅立ち。
あまりオープニングイメージとファイナルイメージは重ならないかもだけど、ただ一人で歌っていたところから、それぞれ先へ進んだから一応対照的ではあったかも??んー。

話の終わり方としては、シング・ストリートと似ていたかなと思う。(公開順的に逆だろうが)
声を上げて、舟に乗って……。新天地へと進む。
(シング・ストリートは彼女も連れて行ったけど……それは彼らが若い二人で、今作の彼らは大人という違いかなーと思う。)
guyとgirl、それぞれの結末は深くは描かず、ただ進んだことだけ描き幕は下りる。その塩梅で丁度良いと思う。guyが成功するのか挫折するのかは、あまり知りたくないし、girlがあの後夫と上手くやれるのかやれないのかも、やはり知りたくないなと思う。
傷ついていた二人が、交流(音楽)を通して、それぞれ前を向き歩み始めたことが大切だろうから。良いラストだった。
(シング・ストリートも、今作と同様に、歩み出した彼らがどうなったかは描かれない為、
監督が大事に思っているのは、音楽を通して広がる世界や繋がり&決意し歩み出すことなのかなと思った。
歩み出した結果よりも、歩み出すことそのもの自体の決意を重要に思っているのかなと。)

人と出会って、音楽を通して繋がって、世界が広がっていく様……良かったな~と思う。
guyとgirlは結局キスすらしてない、手だって繋いでない。でもちゃんと精神的に通じ合えていたと思う。
だからこそやっぱ、最後のgirlの会わない決断は正しいと思うし、強いなあと思う。痛いほどの正しさだ。
決意し進むこと。
二人が最後別れた朝、朝なのが良いね。

ほっこりするシーンやくすっとくるシーン、シリアスなシーンや盛り上がるシーン、それぞれが丁度良かった。


【映像】
カメラワークや映像は、シンプルだけど、
レコーディング合間?の宴会時の上から少し俯瞰で撮ったりとかも挟まって面白かったな。
途中の元カノを撮影したハンディカム的な映像が挟まったり、
夜girlが歌詞を考えるシーンや、朝夜や、パーティ?や、録音スタジオのピアノ室等、場所が違うとライティングや物や壁の影響で、赤に黄に青に……、結構画面全体の色がガラッと変わる事もあり、飽き等なかった。
girlとの初対面時、遠くから引きで静かに、一人歌うguyを映していて、曲の盛り上がりから段々ズームして、落ち着く頃少し引いて…いつのまにかgirlが目の前で聞いてる。っていうカット……めっちゃ良かったなあ、ここでまずぐっとくるものがあったなあと思う。
Fallen From The Skyの宴会シーンはちょっと上から撮ってるのが、浮遊感演出に一役かっていたように感じるし、
各曲のシーンはそれぞれ自然に、合った色や内容になってて、本当に素朴ながらも全てがピッタリハマっている感じがあった。
ラストシーン等の交互の二人のシーンとかも良かったしな。
派手な事はしないのだけど、しっかりと音楽や物語や心情をみせてくる、そういう画作りがされててカメラワークがされてて、良い映像だった。

低予算からか、通常時のカメラもくっきり画質のようなものではない(ハンディカメラらしい)のだけど、
その温度がまた、本当に丁度良い。リアルさをともなっていて、本当に全てがハマっていたなーと思う。


【他】
監督は元ベーシストで、主演の二人はプロミュージシャンらしいのだが、guy役ハンサード氏のバンドが所属していたバンドだそう! それは……、思い入れが深いだろうなあ。凄い。
たった17日間の撮影で、自然光もコスト削減からだったみたいだけど、あの自然光が本当に凄くよかったし面白いな。構想期間等はもっとあるだろうけど、短期間で、こんな作品が撮られるんだね。
主演の二人は現実でも一時交際したり……、友人の家を使用(実際の友人や母親も出演)していたり、ダブリンの通りは望遠レンズで許可なし撮影、演技もほぼ未経験でアドリブも交じってたり……本当に結構リアルな感じが混ざっていたんだなあ。裏を知るとより一層また面白い。

wikiや他レビューを読んで知ったけど、監督はバンド所属する傍らMV撮影もしていたみたいなので、本当にシング・ストリートは半自伝的なものだったんだなあ。ダブリン出身ですし。やっぱり経験を活かして、魂込めて作品を撮っているんですね。
他の作品も見てみたいな。『オン・エッジ 19歳のカルテ』や『はじまりのうた』等。



劇中の、チェコ語。夫を今も愛しているか尋ねた際の返答、訳を教えてくれなかったけど……、wikiによると、「私が愛しているのはあなたよ」という意味だったらしい。
はああ……感嘆。全て見終わった後に知るとまた一層、くるものがある……なんて味わい深い作品なんだ。
(しかも、あのセリフは女優のアドリブで、実際彼は役柄同様に彼女が何と言ったかわからなかったそう。ヤバい!!!!)

シング・ストリートとONCEなら、個人的にはONCEの方が好きかな。
あくまで小規模な、ある程度は現実的さも残した規模でまとまってて、素朴な音楽で、色々な人生経験からの切なさもにじみ出してて、良かったな~。
ドキュメンタリー的で、登場人物名すら出ない素朴さ。でも内容はしっかりしている。
シング・ストリートは、作中でMVを撮っていた為曲のシーンはそのままMVの様になっており面白かったけど、ONCEは曲シーンが生活の中なのにMVの様にも自然と見える(ミュージカルや完全なMVとまではいかず、あくまで生活風景を保った自然な)塩梅で、その感じが気に入った。
primeミュージックにサントラがあった(!)ので、暫くこの世界と繋がっていようと思う。

とても素晴らしい作品だった。
2020年、良いスタートを切れた、
今年も良い映画ライフを送りたい。目標は100本鑑賞。